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食物を殺菌するのに一番簡単かつ効果的な方法は火を通すことです。しかし、寿司のように「ナマを楽しむ食物」ではそうはいきません。寿司の場合には、食中毒防止のための二重三重の安全策を講じることになります。
まず、寿司飯の酢の防腐効果があります。たいていの食中毒菌は酸性環境下では、増殖しないからです。濃い目の緑茶も食中毒防止の大事なサポーターです。渋ければ渋いほどよい。緑茶の渋味成分であるカテキンには強い殺菌作用があるからです。食中毒菌の発育を阻止することがわかっています。さらに、ガリも大切な脇役を演じます。ショウガの辛味成分であるショウガオールにも食中毒菌を殺すはたらきがあります。
しかし、なんと言っても殺菌の主役はワサビにトドメを刺します。ワサビの殺菌力を科学的に証明したのはドイツの研究者たちで、100年近く前の話になります。コレラ菌、チフス菌、大腸菌、肺炎菌、ジフテリア菌などの病原菌を試験管で培養し、これにおろしワサビの汁液を染み込ませた綿栓をしておくだけで、半日後に菌が死滅しているのを見出しました。ワサビから出る刺激性のガスによって殺菌されたことは明らかでした。
生ワサビをすりおろすと、成分のシニグリンが酵素ミロシナーゼで分解してアリルイソチオシアネートというツーンとくる刺激性・催涙性のガスが発生してきます。これが病原菌の菌体タンパク質と結合して、菌を殺すことがわかりました。こうみると、寿司飯にワサビを塗り付け、ネタでフタをするようにしっかり握り込むのも、「殺菌ガス」を外へ逃がさず寿司の内部全体に十分行き渡らせるための知恵とわかります。このガスは、殺菌効果があるだけでなく、魚の寄生虫アニサキスを殺し、おまけに魚の生ぐさい成分と化学反応して、その臭いを消す働きがあります。ワサビにはまさに一石三鳥の働きがあるというわけです。
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